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野の花あったか話



   第351回       終わった。無事に。




 
 コンサート開くって面白いけど大変。収容人数約1,000人の市民会館。開演が土曜の午後3時。開場は30分前の2時半。「2時20分に」とプロダクションに交渉。「ダメ、舞台準備も分刻み」。予想通りの長蛇の列。「最後尾」の表示板が揺れる。雨が降らなくてよかった。逆に太陽が照りつけた。暑い。並び方変更のため、外会場係走る。さあ、オープン。ドャドャとお客さん会場へ。全席自由席。「空席あります」の表示板持って内会場係、1階2階3階を走る。座るや否や「トイレ行きたい」と高齢の女性。入ってくる人とぶつかる。補助椅子も利用してもらった。お客さんなんとか予定時刻に席に。コンサート開始の影アナ(当看護師)のいつもと違う凛とした声が流れた。

 歌手、ピアニスト、バイオリンニスと、ギターリストが舞台へ。声と楽器の音が会場に響き、照明が躍動する。懐かしい歌もあり、お客さんは大きな拍手を送る。地元の合唱団の人たちが登場。皆肩揺らし、声揺らし前日のリハーサルより生き生き。

 「百万本のバラ」に大喝采。アンコールも終わった、お礼のバラの花束を抱えてぼくは舞台に。頭に、赤いバラを付けた古(いにしえ)のナースキャップ、

 百均で購入した白のバラ35個を縫いつけた白衣を着て。「合唱団の間を突っ走って!」と舞台監督。中央に飛び出した。「えっ、エンジェルが持ってきたの?」と加藤登紀子さん、花束を高々と上げた。

 終わった。無事に。皆がホッと笑った。後片付けに走った。






( 2025年6月23日朝日新聞掲載。2025年6月16日記)





この原稿は、朝日新聞鳥取県版連載の『野の花あったか話』(徳永進)のオリジナル原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。

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