時々、県外から電話が入る。愛知県のJA関連の病院から入った。そのあとFAXが入った。紹介の患者さんは76歳。肺がんで肝転移があって、認知症もある。老人施設「一期一会荘」に今年の１月に入所。８月に病気が分かり、鳥取に住む長女が「父の最期は鳥取で見てあげたい」と病院に願い出たそうだ。病院は許可。当方、引き受けることにした。娘さん翌日車を飛ばした。患者さんは「あんた誰？」状態。「弘美だよ」。分からなかった。名神高速から中国縦貫。患者さん、シートベルトはずそうとした。娘さん、慌てた。11時間かけて鳥取に帰った。一泊は娘の家に泊まった。患者さん、訳ありで鳥取から愛知に脱走。トラックやタクシーの運転手して愛知で長年暮らしていたらしい。
翌日の午後、診療所に到着。ＣＴを撮り、採血し、点滴のためのラインを中心静脈に確保しようとした時、暴れた。看護師が押さえた。「放せー」「蹴るぞー」「咬むぞー」。「ババ―」と叫んだ。呼吸は早く、大きい。臨床が修羅場化しそうと予想した。
夜中、病棟から電話。「酸素チューブも点滴ラインも引き抜かれました」。「オラー、オラー」の声が聞こえる。翌朝娘さん、「苦しくないよう、楽に」。薬が効いて一息される日もあり、展転(てんてん)とされる日もあり。
入院して６日目の夜中の３時37分、永眠された。エンゼルケアが終わった時、娘さん、スマホでパチッ。父親と絶縁していた九州の兄にメールを送った。「あんな穏やかなおやじの顔、初めて見た」と返ってきた。「父、いつも私らのこと心配してくれて。色々、迷惑おかけしました」と娘さんが深々一礼した。
こんな家族や臨床どう愛せるか、と私たちはいつも問われる。 |
