看護師の仕事、大変。患者さんの手を握って「がんばりましょう」で済まないことが多い。ある看護師、総合病院から退院して家で過ごすことになった寝たきりの95歳の男性の訪問看護を受け持った。家族の要望は家に帰ったら、座位から立位へ、そして歩き、庭の手入れもさせてあげたい、と目標高い。家ではどんな介護道具が要るか、ヘルパーさんに何をしてもらうか、入浴サービスは、などなど細かく考え采配するのがケアマネージャー（ケアマネ）。退院時の病院でのカンファランスで理学療法士や主治医から「年齢的なこともあり無理なリハビリは危険を伴う」とケアマネは釘をさされていた。「そういうことだから家族がアレコレ要望しても、あなたも協力して抑えてね」とケアマネから訪問看護師に電話があった。
さて退院当日。家族は同じような熱い希望を口に。ケアマネは病院側の説明をくり返えす。訪問看護師は、なるほどそれぞれの意見ってあるなあ、とぼんやり聞いてたその時、モモをギュッとつねられた。「共闘の一砲がない！」とケアマネから。診療所に帰って看護師は言った。「私、人につねられたの初めて」
同じ看護師、その日65歳の末期の男性患者さん宅への訪問もあった。患者さん、胸水を抜いても呼吸困難が続く。「看護師さん」と男性は正座する。「正直に言って。ぼく、あと何日生きられる」とつめよられる。「それは、わかりません。でも、苦しいことをやわらげる薬はあります」。そのあとの医師の往診にもその看護師が付いていたが、鎮静作用のある坐薬を指示すると、素手でスッと彼の肛門に入れた。このごろの片寄った手袋社会（コロナで加速）に違和感を感じてるので、この光景、ぼくの中にスーッと入ってきた。 |
