米子市の大学病院から16才の高校生が紹介になった。５年前からの治療も限界を迎え、地元で緩和ケアを受ける時期、とあった。歩けれない、立てない、しゃべれる、食べれる。呼吸が時々苦しくなる。アパートへ往診するとwebで授業を受けていた。学校も力を入れている。こちらもがんばらねば。そうだお風呂。アパートのお風呂は狭いしシャワーも一苦労。診療所の車で送迎し、寝たまま湯舟につかれる風呂に入ろう。
３月上旬の夜の10時、訪問看護師から電話。「息苦しさを訴えられます。お母さんも不安そう」。救急車で診療所に入院してもらった。点滴とO2吸入で落ち着いた。「助かりました」とお母さん。翌日の回診。「知人からもらった」とお母さんがプロレスのチケットを見せる。「無理かも、お母さん」と彼。この場でプロレス？マジ？と思った。その日が来た。「行きたいです」と彼。携帯用のO2ボンベに点滴セットを車椅子に取り付け出発。ぼくは一足先に会場の体育館の受付に白衣で駆け付ける。「分かりました、その子のためにドクターとナースに無料チケット２枚、どうぞ」とマネージャー。同時に彼とお母さんを乗せた車が会場に着いた。担当の若い男性看護師もぼくも、生のプロレスは初めて。音楽もガンガン、司会者の声も甲高い。「赤コーナー、○△✕。青コーナー、✕△○」。一組３人の闘い。体と体がぶつかる、歓声が上がる。「ワン、ツウ、ス、」、タッチで交代。迫力ある。彼も笑ってる。ぼくは途中で診療所に呼び戻される。
翌日の回診。「よかった！」と彼とお母さん嬉しそう。選手たちは彼と握手してくれ、試合後全員が彼を取り囲んで記念の写真を撮ってくれていた。緩和ケアの一端にプロレスもあるんだ、と初めて知った。 |
