「今日のお昼、15号室でハピバースデーしました」とナース。誕生会はよくあるミニ行事。こんな小さな診療所でも月に２、３回はある。「15号室さん、泣かれて」とナース。んっ？と思った。15号室ってナースコールが多く、「痛いのそこと違う、ここだ」とか「採血一発で決めろよ」とか「下剤が少ない、いや多い」「睡眠薬、効き過ぎるわ」と注文や文句が多い部屋。皆が及び腰になる。改めて問う。「15号室さんが泣いた？」「はい」。
夕方の回診。「おめでとうございます、誕生日、75才！」。「やあー」と15号室さん照れて手を頭に。聞かなくていいのに聞いた。「泣かれました？」。頷く。「だってハピバースデーって歌ってもらったの初めてで」。誕生日は１月５日。それで正月のおめでとうに一括されてきた。「込み込みでした。それに子どものころ、餅はあったけどケーキなんかなかった」。余程うれしかったよう。患者さんのことを文句屋と一概に決めつけてはいけない。人は大概多面体。15号室さん、体調も日に日に変わる。歩きにくい、歩くと息苦しい、便通が滞る。終日病室の椅子に座ってテレビを見る、でもなく見る。「寂しかったりしないですか？」と聞いてみた。「寂しい？そんなもんとっくに通り過ぎた」と一蹴し、笑う。奥さんをがんで４年前この診療所で亡くされた。娘二人は嫁いで家を出た。息子と何とか暮らしてきた。「どうせ女房のとこ行くでしょ、それまでここでがんばるだけです」と言い、加えた。「あっ、さっきいいのが出ました、バナナ１本半」
クリスマスや大晦日、松の内に生まれた人へのハピバースデー、込み込みじゃなく別枠での祝福を。祝福は、どんな状況にある人にとっても、大きな支えになる。 |
