3人組の男の人たちがやってきた。那須(なす)正幹(まさもと)さんの「ズッコケ三人組」のよう。一人は背が高く、一人は低く、一人は中くらい。二人は外国人、一人は日本人。入院となったのは背が中くらいの外国人のヨゼフさん。「よろしくお願いしますー」、難聴あり、大きな声。「歩けない、洗濯や掃除、できない。ぼくたち２人では介護、難しい」と付き添いの2人。3人はある宗教を信仰しているブラザーで、財布を1つにして共同生活をしてきた。軽い脳梗塞、老いの進行が考えられた。ヨゼフさん、椅子に座って聖書を読む時もあったが、左足の痛みが続き、トイレにも立てず次第に寝たきりに。
彼の母国はベルギー。1930年生まれ、第二次世界大戦の惨状を目にした。信徒となり福祉活動を始めた。43才の時日本にやってきた。鳥取の知的障害児施設で働く。子どもたちの食事、排泄、入浴を指導。得意だったのはオルガンやピアノの演奏。歌が始まると子どもたちが集まってきた。手を叩き飛び跳ねる。それから50年が経って、オムツの世話係から世話になる側に回った。
「ありがとうありがとうー」「どうもどうもー」と大きな声で3回。その声が病棟に響く。回診の時も病室に入るや否や「あー先生、ありがとう、どうもー」。「これ」とおやつをくれることがあった。手作りワッフル。ベルギーの名産。お寿司のように、いろんな種類がある。「どうもー」と返事した。クリスマスにはヨゼフさん、石膏で飾りの馬小屋や赤ん坊を作って色付けするのが上手だった、とブラザー。8月、二人に見守られ92才で帰天された。
イブの夜、空の彼方から「皆さん、ありがとうありがとうー、どうもどうもー」と、サンタのヨゼフさんが手を振っているような気がする。 |
