日曜日の病棟。「誰も来てくれん、相続のこと、私分からん」。一人暮らしの光子さん、いつもの明るさ消えた。隣りの病室のヤス江さん、「おなかすいた、アンパン食べたい」。今は坐位がやっと。「もうすぐお昼ご飯来ますから」と助手さん。「アンパン！」。入院して4ヵ月、次の老人施設を探さないといけない。
２つ隣りの友子さん。上半身のリンパ腺が大きく腫れ、顔も腕もむくんでしまった。東京と大阪から孫が来た。眼瞼にも強い浮腫。「見えましたよ、孫ら」。根っから明るい人柄だったのに苦悶中。階段近くの病室の弘さん。「腹張ります」。若いころ酒豪だった。肝硬変になって腹水が大量に溜る。1回の腹水穿刺で3ℓ以上。1週間に1回の穿刺。「月曜には抜いて欲しい」。角の病室に安吉さん。総合病院で多量の腹水指摘されたのに、胃カメラも腹水穿刺も入院も拒否し紹介になった。2日後吐血し救急車で診療所に入院。入浴して髪を洗って髭をそったらいい顔。病気の進行をここまで耐え得る人に敬意を覚える。
隣りの病室に五郎さん、90才。「全てまかせます。よう生きました」。紳士の言葉遣い。老舗の主。「ここなら安心です」。その隣りの女性は93才。生まれは昭和4年9月9日。年下のご主人が面倒をみる。「家内、占いしてたんです。四柱推命」。初めて聞く言葉。生年月日と出生時刻の四つで占うそうだ。「9月9日生まれで、家内、救急車1台寄贈しました」。へえー。その向こうにクニ子さん。ホルモン異常で手足も冷たい。「アリガトウ」と小さい嗄声。壁に自筆の四字熟語が張ってある。「千差万別」「日進月歩」「右往左往」「一心同体」。ここに全てがある、と思ってしまう。窓の外は氷雨。 |
