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| 野の花あったか話 |
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| 野の花あったか話 |
第２２２回 最後の果物 |
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| 赤ちゃんはお乳を嚥下する。命の日々が始まる。老いたり、病気が進行すると嚥下が難しくなる。命の日々は終息に向かう。「何か食べたいものは？」と家族が耳元で尋ねる。「スイカ」と答える人は多い。「スイカの先チョ」。夏場を迎えると水分の多い果実を病人さんは好む。冷えてるとのどごしもいい。スイカは果物ではない。分類上は、樹木に実らないので野菜。ただ果物のように食べるので果実野菜と呼ぶらしい。メロンもそう、イチゴもそう。へぇー、イチゴは野菜か、知らなかった。 嚥下が難しくなっても果物なら食べてみるという人は多い。季節によって、年令によって、病状によって果物の種類は違う。人生の最後に食べたい果物は何だ？そのベスト３は？往診や病棟で聞いてみた。 バナナ、という人もあった。昔は高価な果物。今は安価な果物。ただ、嚥下には少し難しさが残る。サクランボは意外に少なかった。若いお洒落な女性向きか。文旦は実も匂いも好きという人があった。ザクロはゼロ。ブルーベリーもゼロ。意外と口に出たのは無花果。熟れた白無花果。柿も何人かあった。やわらかい花御所。ほんとはあわした西条柿が美味しいのに（私見）。ブドウ、と答える人もあった。デラウェア派、巨砲派があった。リンゴはおいしいのに季節がらか上がらない。 梨がことのほか上がらなかった。少し硬いからだろうか。咬み出して果汁を嚥下したら、暑い日にはもってこいなのに。 一番多かったのは何だ。桃、だった。舌ざわりがいい、甘い。似た食感のラ・フランス、マンゴーは縁遠いよう。路地裏夏期限定調査、終焉時の果実のベスト３は結局、一位桃、二位スイカ、三位メロン。皆さんならどうだろう。 |
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| （ 2020年8月1日朝日新聞掲載。2020年7月28日記) |
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| ★この原稿は、朝日新聞鳥取県版連載の『野の花あったか話』（徳永進）のオリジナル原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。 |
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