人気のある患者さんってある。威張らない人、怒らない人、裏表のない人、まっ正直な人。ついでに、あんまりナースコールを押さない人。ちょっと都合いいか！？
90才のズカばあさんは人気がある。山村の家で一人暮らししていた。市内からお嫁さんが訪ねてみると、そこらじゅうに失禁現象。食事もロクに食べてない。歩くどころか立つのがやっと。「わしゃ、大丈夫だ。」とズカさん。お嫁さんあわてて電話を掛けてきた。「老人施設を探すまで預かってもらえんですか」。たまたま病室に空きがあった。髪はバンバラ、体は何となく尿の臭い。「お風呂入いろっ」、と看護師。みんなでわっせやっせで、寝たまま入る特殊浴へ。八朔を輪切りにしていっしょにドボン。ゴシゴシゴシゴシ。褥瘡予備軍があちこち。何より陰部がただれていた。「大丈夫、ちょっと痒いくらいだ」。お嫁さん「あのままだと凍死か、焼死でした」
夜になるとズカさんの部屋から大声。ナースコールは使わない。「人がおる、誰かあー」「畑にでにゃ〇△×」。軽いせん妄状態。当直の看護師さん、ズカさんを車椅子に乗せて一緒に部屋回わり。車椅子の上で所在ないズカさんに聞いた。「元気？」。ズカさん答える。「うん、わし村の家にいにたい。家がええ」。「なんで？」。ズカさん「大根抜くです。わしの畑のわしの大根。３本ほど抜くですわ」。「何にするの？」「大根はなんでもええで、おろしても汁に入れても煮てもええ。漬け物にもする。葉っぱを炒めると旨いぞお」。ズカさんの目は村の家の裏の大根畑を見ている。素直で素朴でちょいトボケて明るい。それが人気の秘密だろうか。
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