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野の花あったか話



   第204回   ノボタン
 



 暑ーい夏だった。だったで済むのかどうか。残暑もありうる。海?梅雨寒とかで、7月の下旬になっても山陰の美しい海に入ることができなかった。8月になればと思ったら、台風がやってきて、連日高い波。それでも何とか時間をみつけて、夕方の6時半から30分くらい、浜辺の波の間に2回つかった。プー、とミニ鯨。雲間の夕陽はきれい。

 雨? 日本列島では毎年のことだが豪雨に見舞われる地域があり被害もあった。鳥取は雨雲が遠ざかり、たまにザザッと降ったがそれで終り。もっと降ってと空をにらんだが、空は思うようにならない。花火?その台風で町のお盆の花火大会は延期になった。妙なもので、盆と打ち上げ花火がセットになって脳に刷り込まれていて、延期の花火は間抜けな感じだった。花火は夜空に綺麗だったのだけど。

 蝉? 油蝉やニイニイ蝉の鳴き始めが例年より遅かった。里山近くでは、ヒグラシは順調に鳴いた。ツクツク法師は、例年より遅れお盆を過ぎてから調子を上げてきた。町の王様の風格のミンミン蝉も、そのころから登場している。夕方、里山に入ると「ツクツクホウシ、ツクツクホウシ」と「カナカナカナー」の大合唱。これは例年通り。「シャンシャンシャーン」のクマ蝉は気温が高い大阪や神戸などの都市には多いが、鳥取では滅多に聞かない。その鳴き声は暑い。鳥取の蝉はのどか。蝉についての生態系は、今のところ守られている。

 花? 家の玄関先の鉢植えのノボタン、背が高くなり、8月10日ごろから咲き始めた。花弁は5枚、鮮やかな深い紫。朝15輪くらい咲き、一日で咲き終え、夕に紫の花片がサーと散る。8月の下旬まで、朝の地面は紫。ノボタンは暑さ知らず。





( 2019年9月3日朝日新聞掲載。2019年8月29日記)






この原稿は、朝日新聞鳥取県版連載の『野の花あったか話』(徳永進)のオリジナル原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。

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