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| 野の花あったか話 |
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| 野の花あったか話 |
第186回 ついわらう |
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| 人間は笑う動物。特殊な状況に押し込められてない限り、笑う。つい笑う。 女子高生四人が駅前を歩いてきた。一人一人が「あ」「あー」「あっ」、「ああ」と発声。乙女の声、おばあさんの声をまねて笑い転げていた。ついつられて笑った。 医師会館の３階での講演会が終って、二人の旧知の医者がエレベーターに乗ったそうだ。時候のあいさつ、講演の感想など話して「どうぞお先に」「いやどうぞ」と譲り合って外に出ると、まだ３階だった、と。くくっ。 往診先の92才のおばあさん。 腫瘍もあってだんだん立てなくなった。昔は元気な農婦。脈みて血圧測ると「わしゃ、ねたきりスズメですけえ」。この調子ならまだまだいける。 診察室に92才と88才の老々介護の二人が立つ。奥さんの物忘れ進行。「先生、これのことより、わしが危なかったです。腹が張って痛んで、腸閉塞で病院で緊急手術して、10日で生還しました」。ひとり息子さんは、60才で胃がんで去年他界。悲しみ残る。「死んだ息子が何でも運だ、と言ってました。先生、ほんと、運ですな」。すかさず奥さん「あんた、うんこでなんだ」。ギャフン。 62才の肺がん末期の女性。信仰者で松江での全国集会に同じ信者の夫、娘と酸素ボンベ持参で参加。そのあと病状悪化。ご主人、娘さんと鎮静剤の使用を真剣に検討した。死後界を信じておられ死は承知。苦しみを除くことを望まれた。意を決し、「○○さん、少し楽になる注射、しますね」と耳元で言った時だった。意識もなかったその女性、こっち振り向き「ほにゃあー⁉」と素っ頓狂な声を出した。緊張のご主人、破顔一笑。人ってどんな時にでも、つい笑ってしまうんだ。 |
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| （ 2018年12月4日朝日新聞掲載。2018年11月30日日記) |
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| ★この原稿は、朝日新聞鳥取県版連載の『野の花あったか話』（徳永進）のオリジナル原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。 |
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