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| 野の花あったか話 |
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| 野の花あったか話 |
第182回 おんぼろデミオ |
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| 車って興味ない。走ってくれてパンクしなきゃそれでいい。 往診で乗り回っていたぼくの新車、あちこちぶつけて２年でボロボロになった。走行距離だけはどんどん延びた。３万㎞、５万㎞、８万㎞。10万㎞突破した。車屋の兄さん、「まだまだ走れますよ」とエール。ガソリンスタンドのお兄さんたちも「日本車はエンジンがいい」と続投を支持。 おんぼろ車はマツダのデミオで４輪駆動。冬、雪の山道、ボロ車は威力発揮。至難の道を何度も突破。もう一つ。このデミオには他車にない優れたところがあった。座席を倒すとフルフラットになる。そこにお棺がピタッと納まった。お金のない人、家族のない人の時、デミオは遺体の入った柩を乗せ活躍した。霊場で「どちらの葬儀社？」と尋ねられ、「野の花です」と言うと、通してくれた。 「ガタンゴトン」。最近デミオが走行中に変な音を立てた。車体が崩壊するような音だ。走行距離１５９６７０㎞。車屋の兄さん、「限界です。もう車検が通りません」。ガソリンスタンドのお兄さん、ちょっと運転してみて、「音が変、谷底に落ちたらきっと患者さん泣きますよ」と究極のイエローカード。 はて、と困った。車検は残３ヵ月。16年も走ってくれた。走れる限り走らせてやりたい、と馬主の気持ち。限界に挑戦だあ、と決めた途端、ブレーキが甘くなった。ガソリンスタンドに持ち込むと、ありんこのおならのような空気がタイヤから漏れていた。とどめのパンク！。くじけてならじ、修理を依頼！ デミオはゴール目指してガタンゴトン。往診中「先生！メーター」と同乗のナース。廃車寸前に１６００００㎞の記録達成。おめでとうデミオ！、ごくろうさま、デミオ！ |
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| （ 2018年10月23日朝日新聞掲載。2018年10月8日記) |
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| ★この原稿は、朝日新聞鳥取県版連載の『野の花あったか話』（徳永進）のオリジナル原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。 |
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