家族って難しい。「一番大切なのは家族」、「家族の思いやりは宝」、とか言ってしまうと、そうでもない家族は、自分ちはよくないのか、正しい家族ではないのか、と自分を責めることになる。そんなことはない。家族って基本、まともじゃないもの、すんなりとはいかないもの、七転八倒のものと思い直したい。
68才の男性患者さんもそうだった。見舞う人はあまりいない。奥さんとは離別。子どもさんたちも当初「お酒で、暴力で、さんざんな父親でしたから」と、距離を持っていた。仕方ないか、と思わざるを得ない患者さん。
ある日の家族カンファランスで大柄で体育会系の息子さん、思いがけないことを言った。「父に何もしてこなかった。長く生きれないと聞いて、込み上げました。どこへでも連れてってやりたい。時間、ありますか？」意表をつかれた。「有難い、今なら。早い方がいいです」「分かりました」。息子さんの目に涙。実行は遅れたが、幸運にも患者さんの誕生日がきた。衰弱進んでいたが、「一泊で湯村温泉に行きます」と息子さん。患者さん、温泉宿で食べれず、入浴もできずだったが、無事帰ってきて、「行って、きました、」とポツリ。翌日の夜中に亡くなった。
一ヵ月後に詰所に封筒が届いた。「つたないですが」と前置きをして続いた。「父は、気づかないままの人生より、はるかにすばらしい人生でした／父は気づかないままの人生の扉を閉じました／父が気づいた日は、父の誕生日でした、最高のプレゼントをいただきました、逆に（笑）／気づけた人生は、素晴らしい／ここは、家族という大切な事に気づいた場所でした。みなさんありがとう／クソお世話になりました！」。クソかあ、圧巻だあ。
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