立春の日、夕方からの猛吹雪。あっという間に30㎝の積雪。夜中から朝にさらに20㎝。月曜の朝、近所のお兄さん、空転するタイヤに見切りをつけ、長靴はいて徒歩で出勤していった。昨年の91㎝大雪が脳裏をかすめる。春は遠い。
その月曜日の診療所、いろんなことがあった。85才の女性が左手に力が入らぬ、と運ばれてきた。脳梗塞が疑われ、総合病院の神経内科の先生に入院精査をお願いした。救急車がやってきた。／発熱の人、何人かいた。／診察中、警察から電話が入った。外来通院をしている一人暮らしの87才の女性が自宅で死亡しているのが発見された、と。病名や治療内容を聞かれた。昔からの患者さんで、娘さんが朝発見したそうだ。／待合室の車椅子に顔色の悪いおばあさんがいた。順番飛ばして診察室に。近所に住む人。息子さんが一人で家でみていた。ＣＴでは軽度の肺炎、でも老衰著しく診療所の病室に入院。
昼食を食べ終ると２階の詰所から「すぐ上がって」。老衰のおばあさん、息を終えていた。息子さん「今日が誕生日で」。お母さんの手を握っていた。死亡日が誕生日は珍しい。／夕方、在宅で５ヶ月過ごした、お寺の前の92才の肺がんの女性宅に呼ばれた。舌を使っての呼吸。いよいよの時を迎えた。朝までは無理かと息子夫婦に伝えた。「ええ、ええ」と二人、頷いた。夕食を終えると携帯が鳴った。道路は凍て付きバリバリ。訪問看護師がそばに居て話しかけていた。「家でよかった」と二人。／この日、死亡３名。
その翌日氷点下となった。北陸は大雪、鳥取は青空。病室の窓の外にぶら下がったツララがなかなか融けない。夕暮、ポトンポトンと点滴のような雫が落ちた。夕陽が当たりツララと雫がキラキラ光った。病室の外に、光の春が届けられていた。
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