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| 野の花あったか話 |
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| 野の花あったか話 |
第14１回 トオルくん |
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| 人と人のつながりは、切れたり、切ったり、あきたり、湧いたり。 トオルさんは73才。子どものころ、父親は腸チフスで他界。同じころ母親は結核に罹患し、療養所に長期間の入所。トオルさんら６人兄弟は、両親と離れ離れ、鳥取県の西部と東部にあるこども学園に、３人ずつ分けて預けられた。 トオルさん、成人し大阪に出た。仕事に就くが頓挫。結婚をするが頓挫。鳥取に帰り、日雇い仕事をして、古い木造のアパートを借り一人暮らしを始める。トオルさんはやさしい人柄で、近所のご夫婦に可愛がられた。おすそわけにおでんや炊き込みご飯をもらい、代わりに家の前を掃いてあげた。 トオルさん、がんになった。入院。アパートに帰りたがった。「おばさんがご飯作ってくれる」。人のぬくもりのあるアパートがよかった。世の中うまくいかない。おばさんの旦那さん、病気が見つかり総合病院に入院。「面倒は見れないよー」と断られた。 病気は全身に転移していった。口にする言葉は「ありがとうございます」の一言。ある日、「弟に会いたい」ともらした。子どものころに別れ、成人してからもそんなに会うことはなかった。家族のつながりが欲しかった。大阪の弟さん、「女房が大病で入院していて、そっちにはなかなか」。トオルさん、気落ちした。 急変。「行くぞ、待ってろー」。３人の兄弟たちが、あちこちからそろった。こども学園の園長も。「トオルくーん、がんばったなー」「トオルー、おいトオル」。 ２日後他界。朝の９時、お兄さん、園長先生が来てくれて見送り。その中に一人の女性の姿。近所のあのおばさんだった。「どっちが夫婦か思うくらい、助けたり、助けられたりでした」。 |
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| （ 2017年3月25日朝日新聞掲載。2017年3月22日記) |
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| ★この原稿は、朝日新聞鳥取県版連載の『野の花あったか話』（徳永進）のオリジナル原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。 |
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