３月11日、東北震災から丸６年。テレビが写すあの日の津波の映像を見る。胸が痛み、嘆息がでる。
その翌日の日曜は嘘のような春の晴れ日。診療所、日曜は見舞い客が多い。玄関で、「父、海までドライブ、連れてっていいですか？」と坂井さんの娘さん。息子さんもいる、奥さんも。腹水穿刺は土曜日に済ませたし、患者さんも外に出る気満々。「どうぞ」。昔は家具職人だった。「頑固一徹、言い出したら聞かない」と娘さん。ドライブ提案は、患者さんからのようだ。
昔は会社の社長さんで、今は家族の誰も見舞いに来ない10号室の男性もどっかへ行きたそう。助手のＪ君と、駅中のコーヒー屋さんへ連れ出すことに。「いいね、行きたいね」。小康を得ているが、大きな手術をしたあとで、足元がおぼつかない。赤い車椅子を車に載せて３人で出発。診療所を出ようとすると、若いリハビリ担当の職員が68才の男性と奥さんを乗せて、ワゴン車を運転して帰ってきたところだった。海が眺められる温泉へ連れていっていた。男性は、最近食べれずやせるし、パーキンソン病もあるし、無事に湯船に入れるか、と皆が心配した。「入れた？」と車の窓を開け、大声で聞いてみた。奥さんが両手で○を書いた。「よかった！」とまた大声で応答した。いい春の日の温泉旅。
駅前の駐車場に車を止め、元社長を車椅子に乗せ、コーヒー店に入った。人が多かった。老いも若きものごったがえし。これ鳥取？と思うくらい。「鳥取マラソンのランナーたちかも？」とＪ君。「いいね、やっぱり外はにぎやかでいいね。外で飲むコーヒー、旨いねえ。大雪融けての一服、いいねー」と嬉しそう。
風は冷たかった。街の向こうに里山の白い雪が空に映えた。春、近し、遠し。
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