食べるって、大変。イノシシやクマ、パンダにライオンにネコにイヌ、それ以外の鳥やいろんな動物も必死に食べる。食べるは、生きていくことの目的、と同時に生きる事を支える最大の行動。人間は？「人生の目的は食うことです」と答えようものなら、恐い教官に「貴様の人生そんなみみっちいもんか！もっと崇高な高尚な答えはないんか！」と叱られそうで言葉に窮する。
動物も植物も、命は全て、内なる生命力と外から入ってくる栄養素、光、水で成り立つ。動物に〈食う〉は必須。人間は料理という技術を身につけ、他の動物より発達し、より上品に「食事をする」ようになったので、動物のような食べ方を、普通はしないように見えるだけ。
40代の男性だった。がんが再発し、腹部に広く転移した。腸閉塞になり、腸は動かなくなった。口は乾き、水分を希望した。飲んだ水は、鼻腔から胃へ入れたチューブを通って胃から外に逆流した。コーヒーもコカ・コーラも逆流してきた。彼はある日、「ミソ汁、吸いたい！」と言った。母親が家族台所で作った。昆布とカツオの出汁。サイコロ大の豆腐にワカメ、刻んだネギ。彼は汁だけ吸った。「旨い！」
70代の男性は舌がんが首の周りのリンパ節や皮膚に転移。口も大きくは開かない。ひとり暮らし。大雪が止み、晴れ間が広がった日、職員がドライブに誘った。彼が指定したのは近くのスーパー。元気な時によく通った。「よかった。友だちにも会えた」。「何買ったの？」「ジャムパン。あそこのジャムパン、食いたかった。うまかった。懐かしかった」。誰もが、いつも、いつまででも、「吸いたい」し「食いたい」。
食べるって、とっても大事。
|
