鳥取が大雪に見舞われた。雪は北陸まで、鳥取の雪は遠くになりにけり、と高をくくっていたのが甘かった。
雪は静かに降り始め、３日間に及び、積雪90㎝を越えた。ぼくが住んでるのは里山のふもと、観測地より10㎝以上は多いと踏むと、積雪は１ｍを越えた。88才の男性から往診の依頼が入った。リュックに注射液、注射器、針、薬、アルコール綿、血圧計を入れ、背負って長靴で家を出た。雪道をズボズボと歩った。あちこちで雪かきをしていた。「降りましたね、大雪ですね」と、背に赤ん坊をおぶった和尚さん。「こんな雪、初めて、きれいですね」とケーキ屋のパティシエのお嬢さん。しばらく歩くと、顔なじみの開業医の先生がひとり、雪と奮闘されていた。
テレビは報じていた。羽田への飛行機も、関西へ通じる鉄道もバスも、近辺を走る全ての乗り物も運休。再開の見透し立たず、と。歩くしかない。他にも急患の患者さんが出たらどうしよう。歩いて行ける家は限られる。救急車を呼ぶ？救急車も生活道には入れない。国道さえ除雪が進んでいない。市内の大通りも雪の山。診療所の前の細道など、誰も除雪してくれようはずもない。人力で除雪するのは限界だろう。何とかせねば。
88才の男性、「39度の熱がでて、節々痛うて」。インフルエンザテストするとＡ型陽性。手持ちの薬を渡した。「そうですか、外、そんなに降ってますか」とご夫婦。
診療所に向かう途中の、小学校の前の赤いポストもこっぽりと雪に埋まっていた。若い郵便局員二人が、その前で対策会議をしていた。「手紙、届きます？」と聞いてみた。答えは早かった。「ポスト、死んでます」。道路のあちこちで、車が雪に埋まる。町の機能は止まっていた。黒い雲の合い間から、澄んだ青空が見えていた。
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