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| 野の花あったか話 |
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| 野の花あったか話 |
第９７回 同級生 |
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| 「先生、電話が入ってました。がんの同級生のことで相談に乗って欲しいそうです」と、看護師が言う。がんの家族のことで、という相談は多いが同級生は珍しい。土曜の正午に、と約束した。 土曜の正午のチャイムが市内の有線放送から一斉に流れた。「こんなこと初めてで、ぼくらに何ができるのか、って悩んで、迷って」と二人の四十歳過ぎの男性が、診療所の図書室の椅子に坐った。高校時代の同級生。悪いことも内緒でやってたようで、他人事には思えぬ、という男子の友情が、身の乗り出し方、切迫した言葉使いから伝わってくる。 その同級生は東京にいて、進行がんで、抗がん剤治療を受けていて、最近歩きにくくなったと、寂しそうなメールを送ってくる。家族にも言えないようなことが書いてあるそうだ。「家族に会って言った方がいいですか？がんばれって檄を飛ばした方がいいですか？ほんとに死ぬんでしょうか？」 一人の友人は、東京へ飛び同級生に会い、思ったより元気そうに見え、ほっとした。もう一人の友人は、仕事の都合をつけ、近々に会いに行く。四十歳代だから、バリバリの社会人たち。皆が忙しい。そんな中での友人の発病。「武蔵屋の素ラーメン、冷凍で送りました」と友人。中学、高校時代に多くの生徒が通う有名店。その店の息子も、同級生。東京ならもっと旨いラーメンもあろうものを、同級生は、あの時代の思い出、懐かしさを届けたかったんだろう。 特別のアドバイスは何もなかった。若年者がんの特徴、その対応を少ししゃべったくらいで、「だよねえ」と呟くくらいで。 逆になんかあったかいものを感じた。何かしてやらんといけん、何ができるんかなあ、と戸惑う同級生の姿に。 |
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| （ 2016年3月19日朝日新聞掲載。2016年3月15日記) ) |
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| ★この原稿は、朝日新聞鳥取県版連載の『野の花あったか話』（徳永進）のオリジナル原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。 |
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