ＪＲ鳥取駅からそう遠くないとろこにある路地裏通り。車が一台通るのがやっと、すれ違えない。その道を通って、往診先から診療所へ戻ろうとすると、前方に一台の自転車が止まっていた。自転車に乗ったまま、左方に向って手を合わせ祈っている男性がいた。80才くらい。車には気付かない。プッと鳴らすのがはばかられるくらい真剣に手を合わせている。みると何やら小さな祈り場というか、石と木で造った祭壇のようなものが左にある。その人、よくみると、外来に通院している木下さんだ。
自分の病気のこと、早くよくなりますように、と祈っているんだろうか。「あの点滴打つと、大分楽になります」と喘息発作が出た時は診療所が神さん、みたいに言っていたのに。こんな所で祈ってるんだ、とちょっと嫉妬心が湧いた。いや待てよ、別の事かも知れんと思った。親戚や友人、知人に病気や事故が生じ、早く回復、復帰しますようにと祈願しているのかも知れん。
そういえば待合室で、「通院仲間のあの人のもこの人も、わしに相談なしで他界するで、寂しいわあ」と言っていたことがあった。ユーモアがある人。病気は肺気腫。タバコは自力でやめた。明るい性格、ひとり暮らし。祈りは終わり自転車は出発し、車も出発。
次の受診日、木下さんに祈る姿を見たことを言い、「何教？ 何宗？」と聞いてみた。「ありゃ弁天さんです」。「何を祈ってられました？」と続けて聞いてみた。「病気のことじゃありません。宝くじです。２００円のスロット。ずうーとはずれっぱなしで、弁天さん、次のは当たりますよう、と祈っとったです。バレましたか」と頭を掻いた。弁天さんって、商売の神さんだったかなあ？ 路地裏通りの祈り場での、木下さんの、正直な祈りを知った。
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