ガソリンスタンドにはよく行く。つけがきくので同じ店。「暑いねえ、なんとかならんかあ」とぼく。若いお兄さん、「こいつばっかりはー」と。暑い仕事場だから「時々水分補給してよ」と励ます。「車にはガソリン補給しときます」とお兄さん、うまい。１リットル当たりの単価がちと高い。「何とかならんか、価格」とひやかす。「こいつばっかりはー」とお兄さん。諸事情で値は変動するらしい。
別の日、高校野球の県大会のラジオ放送が流れていた。「どこの高校が優勝するの？」。お兄さん、「こいつばっかりはー」。雑談してると誰かと誰かが見合いしたか、付き合っているとか。「結婚する？」。お兄さん、「こいつばっかりはー」。そこに選挙カーがガソリン補給に入ってきた。お兄さん、立候補者に手を振って、ガソリン入れた。そこに、対立政党の選挙カーが入ってきた。お兄さん、そっちにも手を振ってガソリン入れた。「支持する方にだけ入れるん違う？」「こいつばっかりはー」。「どっちが当選？」「こいつばっかりはー」。
「らっしゃい、オーライオーライ、ストップ―」「大変ですねえ」「そうすかあ」「ありがとうございます」「気を付けて」、とお兄さんたちサービスの基本、身につけてる。毎年必ず二回、例の台詞を言わせることになる。夏タイヤをスノータイヤに替えるころと、逆にスノータイヤを夏タイヤに替えるころ。「いつ雪消える？、いつから雪降る？」。お兄さん、「こいつばっかりはー」。
別の日の閉店前に飛び込んだ。「大変ですね、休みあるんですか？」「あるようなないような」とぼく。「人っていつ亡くなるか、名医にはわかるんですか？」とお兄さん。「こいつばっかりはー」と、ぼく。世の中、大抵のことは「こいつばっかりはー」なんだ、きっと。
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