不安は誰にもある。人間であることの本質の一つだろう。そんな自分を支える言葉があったら救われる。「かわいい」「きれい」「根がやさしい」かっこいい」「タフですね」「信念の人」「信じれる」「腹がない」「おおらかなんだ」「努力の人」などなど。
ぼくも、ある言葉に救われたことがある。京都の新聞社が主催する座談会、「安楽死を巡って」があった。メディアは、本人の意志の確認がない中で、ある薬物を使用し、がんの末期の患者を死に至らしめたことは、果たして許されることなのか、と連日のように報じていた。元検察庁の幹部と、医療人類学者で近代医療には批判的な視点を持つ元阪大教授・元耳鼻科医の中川米造先生とぼくの三人が呼ばれた。思いがけないことが生じる臨床で、誠意を持って働いている医療者を、司法によって作られた基準に当てはめるだけで裁くのには問題を覚える、とぼくは述べた。元検察庁の人は、「認められなかった安楽死を、五つの条件が揃っておれば認める、と決断したのは司法としては大きな進歩だ」とおっしゃり、理解できる点もあった。
休憩にはいった。ばくはトイレに行き、中川先生もトイレに入ってきた。互いに用を足しながら「どうもどうも」とあいさつをしたあとだった。中川先生が不意に言った。「君はユニークな医者だからね」。「いやあ」と照れたのだが、なぜかその言葉が「ストン」と胸に入った。面と向かって（横並びだったが）、今まで他人に言われたことがない表現を投げかけられた。
先生は18年前にがんで家で亡くなる。「ぼくの本なんか読むに値するものなんかないよ」も覚えているが、ユニークは今もぼくの中に生きる。ほんとは誰もがユニーク、唯一無二。そう思うと、不安は少し遠のく。
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