患者さんが入院した。昔、同じ病院で働いたことがある、元助産師。第二ベビーブームのころだったから、お産は夜明けも昼も夜中も。三千人の赤ちゃんを取り上げた人。その中にぼくの子どももいる。
「ようこそ」「お久しぶり、世話になります」「どうですか」「食べれません、ちょっと息苦しい」。
点滴を刺そうにも血管がなかった。首の血管から挿入しようと思ったが、首は短く、顔が横を向きにくい。脳卒中の後遺症もある。なんとか入った。これで食べれなくても栄養の補給はできる。次は右の胸水穿刺。エコーで確認して穿刺しようとするのだが、普通の針では届かない。なんとか入って、１３５０㏄抜けた。息も少し楽になった。
夜中にその人の病室から声が上がった。「○○××△△」。当直の看護師さんが駆けつけると「寂しいので主人を呼んで欲しい」とはっきり。ご主人到着。ソファーに腰をおすや否や、スース―と寝息が立った。
１週間が経って、「食欲は？」と聞いてみた。「ありません」「散らし寿司、巻き寿司、イナリ寿司、食べたくない？」「欲しくありません」。「冷ソーメン、ニューメン、うな丼は？」「食べとうありません」。「イチゴ、リンゴ、メロンにスイカは？」「スイカなら少し」。
暑い日々、急げ、と近くのスーパーに走った。大栄町のスイカは、未着。糖度の高い小玉スイカを買った。細く切った一切れの先端をパクリ。咳が出た。もう一切れの先端をパクリと食べると、「急に姉が病気で倒れて」。「今日は、とんちんかんなことばっかり」とそばにいたご主人。「先生、ここ小そうなりましたな」と、ご主人ソケイ部のリンパ節を触っている。頷くと、うれしそうな顔して、残ったスイカ食べられた。「助けたらんと」と元助産師。
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