第二土曜日、診療所の近くのスーパーは一割引き。夕方、仕事を終えた帰り、寄ってみた。混んでいたが、盆や正月ほどのことはなかった。果物売り場に、新鮮なイチゴが並んでいた。どれもきれい。ちょっときれいすぎ。不揃いで、ちょっと傷あり、で良かったのに、ない。まっいいか、一割引きだしと４パック買った。
あくる日の日曜日の午前、患者さんが亡くなった。静かな死。玄関の背の高い山桜が開花して、見送りに加わった。奥さんと、息子さんが木の下で一礼。
午後、４パックのイチゴの緑のヘタを切り、カゴに入れ、重さを計った。ちょうど一キロ。ヘタの破片がくっついていた。グラニュー糖を４５０ｇ計ってボールに入れた。レモン１個を４分割して、くぼんだ皿に汁を絞った。種が５個入った。種を取り除いた。
平べったい鍋に、イチゴと砂糖とレモンの汁を混ぜ合わせ、火にかけた。イチゴも砂糖もぐらぐらと音を立て始めた。木のへらでまぜると、どこかから水分が出現し、赤い湖に浮かぶイチゴの小舟、みたいになった。アワが立ち始め、アクも出てきた。アクは別のシャモジで掬った。掬っても掬ってもアクは出てくる。鍋の中は火山の噴火のようになる。赤色が深くなる。アワは鍋の中心に、アクは鍋の周辺に。掬って、掬って。サラッとしていた赤の湖がドロッとしてきた。火を止めた。
二階の書斎にいると診療所から電話。「めまいの患者さんからです」。往診した。しばらくすると「じんま疹の患者さんからです」。往診した。書斎に戻る。梅の枝、夏椿の枝が窓の真横まで伸び、新芽を開かせている。季節が急速に移っていく。
そのあと、あったか紅茶を作り、冷めたイチゴジャムを食べてみた。すっぱく、甘い。春の休日の、一休みの時。
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