約二十年間続いた鳥取緩和ケア研究会、今後どうしようと、宴会兼ねて幹事会開いた。いい話合いができたな、と帰り道に思いながら、自転車こいだ。診療所に着いたところで携帯が鳴った。訪問看護師から。病院を退院して一週間、家で調子よく過ごしていた88才の市兵さんが、昼食後からゴロゴロ言って落ち着かない、と。誤嚥性肺炎だろう。前の日も、その日の往診の時も元気だったのに。このまま家で過ごすかどうか、早急の判断がいる。市兵さんには少し悪性の病気もある。長男さんに電話を代わってもらった。Ａ病院に入院か、Ｂ病院に入院か、このまま家か、それともぼくたちの診療所に入院か。この４つのどれであっても対応しようと思った。「Ａ病院にお願いします」。電話を切って早速Ａ病院に電話した。「受けます」と快い返事。すぐに紹介状を書き、救急車の手配をしようと思った。
救急車が先に着き、医者が遅れるのもバツ悪い。紹介状をＦＡＸで送り、それから１１９番、出発はこっちが先、と決めた。「はい、職人町ですね、向かわせます」と１１９。白衣着て、紹介状をポケットに入れ、夜の町を自転車で現場に向かった。猛スピード。すぐに後ろから「ピーポー」の音がした。早えー、と思った。負けるな、とペダルに力を入れた。みるみる赤い光が追いついてくる。現場は、前に見えるビデオ屋を左に曲って二百メートル。もう少しのとこで抜かれた。残念、ピーポーは細い道で、往生している。チャンスだ。自転車は小回りが利く。逆転なるか、ペダルに力入る。結局は救急車が先。負けた。救急隊員が中に入った。20秒遅れてぼくも。市兵さんの顔色が朝と違っていた。息子さんにも説明。しばらくして、ピーポーはＡ病院へ出発。息子さんも訪問看護師も後を追う。ぼくは見送る。敗北選手の気持ちで、見送る。
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