あつい食べ物とあったかい食べ物は違う。あつあつのラーメン、あちあちの鉄板焼き、あつあつの炊き立てご飯と、あつさが落ちついたきつねうどんのだし汁、温野菜、ぬく飯とは違う。あつい食べ物はふうふうと吹きながら、急いで食べるからおいしい。あったかい食べ物は、容れ物を両手に持って、その温かさを手に感じながら、ゆっくりと口に運び、その味を口唇、舌、頬粘膜に感じながらごっくん、と味わうからおいしい。あつあつの食べ物は、急いで胃を通り過ぎ、小腸へ移動してる、と医者ともあろうものが非科学的な想像をしてみる。あったかい食べ物は、胃にやさしく納まっている気がする。
若く、いや年を重ねても、元気な時はあつい食べ物が好まれるし、似合ってる。寒い日は特に。老いたり、病んだり、あるいはこの世からの旅立ちの用意が必要なころになると、あったかい食べ物の方が好まれるし、似合っている。ふうっー、ふうっー、と吹くことさえ相当な体力、生命力が要る。あったかい食べ物ならふうふうなんかしなくていい。そっと食べればいい。あったかさがじんわりと、体に広がる。
ほっとするあったかい食べ物、あったかい飲み物って何だろう。食べ物ならおでんか。飲み物なら、砂糖を入れたあったかいミルクティーや、あったかい焙じ茶か。あついおでんもおいしいが、おでんはあったかさが似合う。あったかいミソ汁もいい。あったかいポタージュスープ、コンソメスープ、オニオンスープも体が温まる。あったかいおイモさんも、あったかいブタマンさんも、あったかいお粥さんも温まる。嚥下する力が残っている人には、炊き立てから少し時間を置いたぬく飯に、梅干か紫蘇刻みか、海苔のつくだ煮を乗せるのが似合う。それらは体を温かくし、体もそれらを温かく包む。
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