普段の外来診察。まずは体重測定、それから食欲ありますか？お通じは？夜は眠れますか？などと聞く。腰が痛い、めまいがする、夜中におしっこに何度も起きる、などの訴えがある。暑かった夏が終わって、朝晩の気温がぐんと下がると咽頭炎を起こしやすくなる。いわゆるかぜ。副鼻腔炎もかなり多い。かぜは、うがいや頸部を冷やさず何かで覆うだけでも予防になる。職場のストレス、家の中の問題、社会状況などからゆううつな気分を抱える人は多い。
患者さんに聞いた方がいいこと、聞かない方がいいこと、いろいろある。普段は聞かないけど、ある日の外来、つい聞いてしまったことがある。２年前奥さんをがんで亡くして、肩を落とし、プンとアルコールの臭いをさせてやってきた男性に。稲刈りが終わったというのに嬉しそうではない。「何しても精がない」としょんぼり。「結局は、奥さんに惚れとったんですか」。急に顔を上げ、「だ」と少し笑む。〈惚れる〉は〈ｌｏｖｅ（愛する）〉よりほんわかとしたあったかさがある。広辞苑には、①ぼんやりする、放心する。②ぼける。③心を奪われるまでに異性を慕う、とある。「だ」、ともう一回。
次に診察室に入ってきた80才の女性に「結局、どちらが惚れてたんですか」と聞いてみた。「先生、今日はこの路線？」と看護師。去年ご主人を見送った元教員の方である。「結局、二人とも、惚れてはなかったんじゃないでしょうか」、と冷静なジャッジ。次の清楚な女性は20年前に一回り年上の旦那さんを亡くしておられ、最近物忘れが強くなってきた。「惚れていたのは私だと思います。主人が結婚しよう、と言った時、考えさせて下さいと言わず私すぐにハイッ、て言ったんです」。目が輝いた。認知症は吹っ飛んだ。広辞苑の②が消え、はっきりと③が甦った。
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