新緑の風流れる日曜の昼過ぎ、診療所の近くの路地を車椅子に乗せてもらってる野田さんとすれ違った。ブレーキ踏んで、「どこへ行くの？」「この方は誰？」。「スーパー」「友だち」と野田さん。野田さんは、がんが脳にも転移してて「だったらうち、鳥取でゆっくり過ごしたいわ」と大阪から野の花診療所にやってきた人。３週間が経つ、74才の元ナース。「私は今朝大阪から。夕方のバスで帰ります」と友だちはいい顔で、あったかな日射しの中、車椅子を押していた。
病棟を回診していると。野田・友だち組がラウンジに戻っていた。友だちがお茶を運んでいた。「スーパーに歯ブラシとパンツとおやつ買いに行ってました」、野田さん嬉しそう。「この人ね、近所の人なんよ」と紹介された。
大阪の市営住宅に40年間一緒に住んできたそうだ。「まあ、長屋の仲間やね」と友だち。子育ても同じころで、弁当も作りやっこし、都合つかん時、ＰＴＡにも交代で出あっこした。野田さん離婚歴あり。友だち、なし。家庭の事情は二人の中でツーカー。互いに子育て卒業し、まるで姉妹のよう。「センセイの本にありました、〈家族は親しい他人〉、あれです」。野田さんの性格を友だちに尋ねた。「頑固一徹」。こちらの人は？と尋ねると「やさしいよ。うちをいつも庇護してくれはる」。「うそよ、単なるでしゃばりおばさんよお」。
わははわははと二人は笑う。「で、死後は？」と友だち。ドッキン。「決めてます。全て鳥取で済ませ、散骨にして欲しい」「分かりました。子どもさんたちの意見も聞いてそうします」と友だち。
野田さんは買ってきたカリントウ食べながら、死後のことを雑談のように友だちと話し合う。初夏のあったかなラウンジの夕暮れ。 |
