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第５９回 朝の申し送り |
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朝の申し送りは八時四十五分から。当直した看護婦さんが報告する。けさは主任さん。
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おはようございます。一号室です。まこちゃん夜遅くまで絵をかいておられました。学校には行きたくない､とお母さんに言われたそうです。体重十九キロで拒食中。朝の血糖が六〇。
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二号室､林のおじいちゃん、もうかわいくて、プーさんの縫いぐるみ抱いて寝て､添い寝してあげたいくらい。黄疸は顕著です。
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三号室の片山さん、日赤病院で放射線治療が本日で最後､腰の痛みは楽､本日午後、息子さんと外食希望です。
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四号室です。そま子ばあさん、でました。摘便を準夜さんがして、そのあとの浣腸でしっかり。「先生には悪いように言っといて、退院はしとうない」とのことでした。
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五号の谷口ゆりさん、例の発汗､発熱と疼痛が夕食後から。筋注しました。夜中の一時に解熱し、入浴希望され､ゆず湯に入られました。良眠。
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六号は特に変わりなし。七号の高月信子さん､モルヒネ持続皮下注が開始になっていますが､まだ骨盤の痛みが残るそうで､ご主人がマッサージしてくださいましたので、コーヒーを差し上げてます。先生､次の指示なにかよろしくね。
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途中に電話がかかってきたり､「あのー、看護婦さーん」と中断されそうになるが､大体はひるまずに申し送りが進む。
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―どこまでいきました。あっ八号の森さんですね。遅くまでインターネットされて､新しい抗がん剤の情報を探しておられました。ユーモアのある人で、大笑いでした。
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九号の鹿野さん､三十九度に発熱。左下腹部の腫瘤が自壊、においます。午前の処置もお願いします。付き添いの奥さんもメニエル病が出て､病室で点滴してます。
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十号が大変の大変。一時間ごとのコールでした。（全員の看護婦さん、うなずく。肺がんの佐野ウメさん。昼静か､夜､ナースコール攻め）。今何時だ､弁当はまだかーって、参りました。早朝からおつとめのお経です。
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十一号､りせさん、お茶こぼし、シーツ替えてます。
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十二号室の石井宏さん､膵がんで昨日入院の四十八歳。姉さんも亡くなっていて､独り暮らしで身寄りなしです。睡眠剤で眠られましたが､たべられません。…
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申し送りの中にも､さまざまな問題が出現している。「えーと、十三号室ですが､」と申し送りは続いていく。
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ご意見をメールでお寄せください。アドレスは次の通り。
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nono_hana@nifty.com
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★この原稿は、社団法人共同通信の「医師の目人の目 野の花の一日」（徳永進）という配信原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。連載タイトルと毎回のタイトルは、サイト独自に付す場合もある旨をお断りしておきます。
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