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第２７回 誇りに満ちた顔
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看護婦ってなんだろう。長年､看護婦さんと一緒に働いてきたから､看護婦さんのしていることは見ていたつもりだった。点滴したり、「眠れましたか？」と声をかけたり、下の世話をしてあげたり、お風呂に入れてあげたり、食事の介助をしたり、カルテに記録したり。数え上げれば、百を越す仕事があると思う。
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看護は激務で、危険も伴う。すぐにマンネリ化しがちなためか、コンピューター化の影響を受けてか、仕事を終えた看護婦さんの顔がスカッとさわやか、というようなことが最近は減少しているような気がする。
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先日のことである。家で人生最後の日々を過ごしている安さんちへ点滴に行って､はたと考えた。痰（たん)が増え、発熱し､うつぶせになったら頬に床ずれができ、安さんの体は急速にいたんでいた。
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連れ合いの良ばあさん一人では､体位の変換もできず、オムツ交換がやっと。死は近い。このまま死を迎えては後悔する。「看護を投入せねば」と直感した。
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病診療所に戻ってわけを話し、「安さんをとにかく美しく仕上げて」「三日前、そんなんじゃなかったですよ」「いや、急になんだ」と看護婦さんに頼んだ。
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ぼくは二人の看護婦さんを車に乗せた。いろんな物を用意して、二人は安さんちへ乗り込んだ。「二十分したら、迎えに来る」と、ぼくは診療所に戻った。
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二十分たって、安さんちへ電話した。良ばあさんが「看護婦さん、いろいろしてくれてます。今あそこ洗ってくれてます。まだまだだそうですよ」と言った。
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一時間たったので電話した。「ボーボーのひげをそって、指も洗ってもらって、まだまだだそうですよ」。迎え依頼の電話が入ったのは一時間二十分後。二人は家の前で待っていた。「何点なのか､見てくる」とぼくは言い、安さんちへ上がった。
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バリッとした寝間着を着て、目と口もきれい、顔､男前。ベッドも見違えた。サーと風が吹いた。良ばあさんに「どうだった？」と聞いてみた。「そりゃあすごいですよ、看護婦さん。汗ブルブルで頭の先から足の先まで、優しい言葉をかけてやって、みーんなきれいに、ほんとに」。良ばあさん、感動の顔。
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二人は車にちょこん。「何点でした？」と聞いた。「百二十点」とぼくが答えると、「やったあ」と笑顔。誇りに満ちたすがすがしい笑顔だった。看護って、やっぱりあるんだ、とまたつくづく思い知らされた。翌朝、安さん、他界。
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★この原稿は、社団法人共同通信の「医師の目人の目 野の花の一日」（徳永進）という配信原稿を、サイト収蔵保存のため再録したものです。連載タイトルと毎回のタイトルは、サイト独自に付す場合もある旨をお断りしておきます。
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